奈良発靴ジャーナル

2022/01/21
警官の靴をつくる − 奈良の革靴メーカー、出原製靴(エンパイヤシューズ)
警官の靴をつくる − 奈良の革靴メーカー、出原製靴(エンパイヤシューズ)
警官の靴をつくる − 奈良の革靴メーカー、出原製靴(エンパイヤシューズ)

奈良県、大和郡山市。現在7社の革靴メーカーがここに集まり、紳士靴の国内有数の産地となっています。人口減少、低価格輸入品の増加、スニーカーブームなど、革靴にとっては厳しい環境が続く中でこの7社は、奈良の革靴産業を広く知っていただいたりその競争力を高めたり、といった目的に向かった取り組みに力を合わせています。このウェブサイトや、7社が共同で開発・製造する「新しい奈良の革靴、KOTOKA」もそうした中で生まれたものです。

主に百貨店や量販店で販売するビジネス靴を中心につくってきたという共通点を持つ7社ですが、それぞれ独自の強みを持っています。近年は、その独自の強みを伸ばすことで、それぞれが自然と市場の中で棲み分けをし、厳しい市場の中でも共存を図っていく傾向にあります。今回ご紹介するのは、警察官の靴など、官公庁向けの靴を得意とし、その分野で業績を伸ばしている、出原製靴(エンパイヤシューズ)です。

 

 

出原製靴の工場には、ピカピカに光る黒い革靴が所狭しと並んでいます。ほとんどが全国の都道府県の、警察、消防署、水道局、交通局の職員用の靴。国民の生活を守り、支える人々が日々の勤務で履くための靴です。各都道府県の、それぞれの部署が指定する仕様に則って、機能重視でつくられ、入札を経て採用されます。自衛隊音楽隊用の白い靴を除いて、全て黒い革靴。デザインは多少違っていても、皆それぞれの「正装」つまり制服に合わせて履く靴なのです。

 

 

公共サービスに携わる者に求められるキチンとしたスタイル。同時に求められるのが、性能、つまり耐久性や使いやすさです。用途に求められる機能を満たし得ることを証明するさまざまな試験を受けて合格したものでなければ採用されません。試験内容と合格基準は、用途によって変わりますが、素材となる革の引っ張り強度、引き裂き強度、防水性や靴底の屈曲性、対滑性、伸長性などです。

さらに、これら公務員の制服と共に支給される靴の費用は、国民の税金によって購入されるもの。その分価格も厳しく管理されています。限られたコストで、性能試験をパスする性能を持ち、警官、消防署員など、時には危険な場面で激しく靴を使う人々に安心して履いてもらう靴とするためには、素材の選び方、靴のつくり方、にもそれなりのノウハウが必要です。そうしたことができるメーカーは限られています。

 

 

「誰にでもつくれないものに挑戦するのが楽しいんです。」と、出原製靴の二代目社長、出原賢一氏は言います。1953年に創業した出原製靴が、元々得意としていたビジネスカジュアルタイプの靴から官公庁向けの靴にその軸足をシフトしてきたのは、賢一氏の考えによるものです。

かつては、マッケイ製法のソフトなイメージのビジネスシューズが出原製靴の主力商品でした。今でも毎年、個性的な新たな商品の開発、投入を続け、この市場に向けた靴づくりも続けています。こちらの分野では、堅実な官公庁向けの靴からガラリと変わって、デザインの面白さを追求しています。

 

 

例えば、サンプルが仕上がったばかりの、この新製品。しっとりとした上質感あるレザーに「鯉」と「髑髏」の柄を大胆に彫り込んだ、奇抜とも言えるデザインの革靴です。

黒く、カチッとしたタイプで、機能性重視の官公庁向けの靴と、質感の中にも遊び心をたっぷりと盛り込んだカジュアルな革靴。大きな振れ幅に見えますが、どちらも、年月をかけて築いてきた、出原製靴(エンパイヤシューズ)の伝統です。

靴づくりの現場では、社長の賢一氏に加え奥様と従業員、合わせて7名のチームで日々靴をつくっています。ここでの出原製靴の強みは、7名全員が、自社工場での靴づくりの全ての工程をこなせる技術を持っていること。その時々の必要性に応じて、柔軟に分担する作業を変えて、効率良く靴をつくることができるのです。官公庁向けの靴の生産が増えて忙しくなった工場では、日々それぞれが黙々と作業を進め次々と靴を生産しています。

 

 

手作業による工程が多いのは、奈良の他の革靴工場と同じです。一足々々に多くの手が加えられて、丁寧に仕上げられます。

 

 

技術研鑽や製品開発にも熱心な賢一氏。今、課題に感じていることは新たな木型の開発です。どのような場でのその機能を発揮しなければならない官公庁の靴。長時間、また過酷な状況で履かなければならない場面もよくあります。ぴったりと足に合わせることがとても重要になります。

現在でも、2232cmという豊富なサイズバリエーションに加え、場合によっては 26Eと、6つものウィズ(足幅)を揃えています。ひとりひとり違った形の足にもフィットさせる事が求められているのです。そうしたサイズ、ウィズに対応する木型が工場にストックされています。

 

 

それでも、新たな木型開発の必要性を感じているのは「若い人の足の形が変わってきている。」からだと、賢一氏。新人警官向けの靴を納入する時には警察学校へ採寸に行くのですが、最近は、その採寸の時に足形の変化を感じるそうです。

長年変わることのないスタイルの官公庁向けの靴ですが、それを常により良いものにしていく賢一氏の熱意。私たちの生活をより良くするために、日々勤務を続ける公務員の靴にまさに相応しい靴メーカーです。

出原製靴(エンパイヤシューズ)

639-1042 奈良県大和郡山市小泉町2475-5

e-mail : empire-shoes@movie.ocn.ne.jp

 

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