奈良の7社のメーカーが共同で開発した 「新しい奈良の革靴、KOTOKA」。奈良らしい革靴のあり方を求めた結果、歴史の中で私達日本人が育んできた美意識、感性を使った靴づくりを考えるに至りました。つまり、日本料理のように素材を生かし、日本建築のように簡素さの中に美を見出し、古寺の柱のように時と共に味わいを深める。そんなつくりの革靴です。
素材には日本の革の中からそうしたつくりの靴のふさわしいものを探し、栃木県や兵庫県の革を選びました。奈良にも優れたタンナー(革製造業者)はあるのですが、KOTOKAで必要とする厚手の牛革はつくっていないのです。しかし、なめしや仕上げは他県でも、奈良だけの何かを持つ革をKOTOKAに使ってみたい。そんな思いから生まれたのが、限定生産のKOTOKAのためにつくった「奈良墨染和牛革」です。
奈良には特産品が沢山あります。その中でも、最も長い歴史と伝統を持つもののひとつが墨。書道において硯で磨(す)って使う墨です。現在、日本の墨のほとんどは奈良県でつくられています。
墨は、松脂(やに)や菜種油の煤を、革をつくる時に生まれる副産物である膠(にかわ)で練って固め、時間をかけて乾かしたもの。昔から変わらない手づくりの工程を重ね、乾燥に何年もかけてつくられています。
この奈良の名産品である墨で革を染め、その革でKOTOKAをつくれないだろうか。そう考えたのが、限定生産のKOTOKA「奈良墨染和牛革」の出発点です。
この企画に賛同して下さって、工房で練った墨(生墨)を提供して下さったのが、奈良県奈良市の「錦光園」さん。江戸時代から墨づくりを続ける工房です。筆書きが当たり前の時代から、鉛筆、ペンの時代となり、さらにIT化が進んで文字を書くのに筆記具さえ使わなくなった現代に、新たな墨の価値を創り出すための活動に積極的に取り組んでいます。奈良の墨づくりと錦光園さんについては別途、この奈良発靴ジャーナルでご説明したいと思います。
今回のKOTOKA限定生産品の革は、東京でなめされた和牛のヌメ革(植物タンニンでなめした革)に、「錦光園」七代目、長野睦氏が練り込んだ生墨を湯煎して墨液とし、それを革に何度も吹き付ける方法で革がつくられました。
実は墨の色素の粒子は大きく、なかなか革の繊維の中に染み込みません。このため、墨は染料として適したものとは言えません。墨だけでは大きな色ムラも生じます。試行錯誤を何度か重ねた結果、色の濃さを均一にするために革を一度薄くグレーに染め、その上に四、五回墨液を吹き付ける方法で、ようやく墨ならではの色合いと独特な風合いを持つ革が出来上がりました。
奈良らしい落ち着きと安らぎ。KOTOKAが履く方に感じていただきたい心です。奈良の墨で仕上げた革の柔らかな墨色は、まさにそんな気持ちにも通じる温かみを持つ色となりました。この革を使って限定生産したKOTOKAは4デザインです。(今回の限定生産品はメンズのみとなります。)
まずは「一枚革ダービー メンズ」 (上図 / 品番はKTO-2003)
足指あたりにゆとりのある木型でつくったゆったりと履いていただける紐靴です。クッション性のあるソールを使って、ステッチダウン製法でつくられています。
小売価格(税込) ¥38,500
こちらも紐靴の「飛鳥ホールカット メンズ」 (上図 / 品番はKTO-4003)
つま先に程よい丸みを持つややタイトなシルエットのラウンドタイプの木型を使った、スマートなシルエットの靴。ソールは本革にラバーを組合わせた頑丈なもの。マッケイ製法でつくられています。
小売価格(税込) ¥38,500
次はクラシックなスポーツシューズを思わせる「オリンピアン メンズ」 (上図 / 品番はKTO-5003)
足指あたりにゆとりのある木型とつま先まで靴紐を配した構造でしっかりと足にフィットします。グリップの良いビブラム社のアスペンと呼ばれるソール。セメント製法で軽快につくられています。
小売価格(税込) ¥35,200
最後は「一枚革スリッポン メンズ」 (品番はKTO-5003)
無駄を削ぎ落とししたデザインのスリッポン。スマートなラウンド木型でつくられた流麗な靴です。靴底は、馴染みの良い革の踏みつけ部分にラバーをセットしグリップを良くしたもの。マッケイ製法でスリムにつくられています。
小売価格(税込) ¥38,500
全て、墨書きで「奈良墨染和牛革」と書かれた特製靴箱入り。通常のKOTOKAのロゴの代わりに「古都靴」と篆刻された印が押されます。
奈良に伝わる墨づくり。その墨を用いた、落ち着きと安らぎを感じる色合いの、限定生産「奈良墨染和牛革」KOTOKAは令和4年4月後半の発売予定です。
謝辞 – KOTOKA限定生産品のための墨染革をつくるに至って。
「錦光園」七代目、長野睦様には、奈良に伝わる墨づくりの工程を惜しむことなくお見せくださり、また革の試作段階から何度も、いつも快く、生墨をご提供いただきました。また、長い年月奈良に伝わる技を途絶えさせないための様々な挑戦を拝見し、伝統を負う者の責務を改めて感じることができました。心より感謝申し上げます。
リレザー(ICHI)斗谷諒様には、革を墨で染め、仕上げるという難しい課題を快くお引き受けいただき、何度も試作を重ねて、最終的に唯一無二の美しい革をつくっていただいたこと、心より感謝申し上げます。